市川武史は近年バルーンを一貫して素材にし、大規模な野外でのイベントを試み、また年間
数回もの個展を画廊空間で展開してきた作家である。バルーンはむしろ60〜70年代に環境
的なハプニングとして使用されてきた素材で、アドバルーンの意味そのもののように、何らかの固
有の意味性をシンボライズする要素ともなるものだ。そのような別段の新しいものではなく、また
全体に浮遊感がが実体化してしまっている現代の中での制作においてはむしろ困難な素材で
あるはずだ。
今回の受賞作品はギャラリイKに出品されたものだが、ここでは造形的な作りのほとんど抑制
された、ごく小さな透明なバルーンが浮かぶだけのものだ。しかしこの最小限のまさに吹けば飛ぶ、
ほとんど実体感のない皮膜のみの浮遊体は、造形としての形の鑑賞を失効させ、代りに周囲を
波動のように満たすある場に変える。浮遊していきづくように在る作品は繊細な環境の変化にも
反応し、我々が見ていることのみで影響を与えられるものだ。いわぱ動き関係し合う内部の現場
に我々も共にある、内部観察的な生命的な関係の場とも化すのだ。確かにそのかそけき存在は
我々とともに水槽の中にいまだ名付けられないもののようにただ浮かんでいるのだ。

                                                               Kazuo Amano  天野一夫

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